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制作会社や個人から直接依頼を受けるようになると、必ず契約書が出てきます。あるいは、契約書がないまま作業が始まってしまうこともあります。
私はWeb制作に14年関わり、派遣・正社員・フリーランスのすべてを経験しました。フリーランスとして要件定義からデザイン、実装、公開まで一人で担当する案件も受けてきました。その立場から、実務で本当に確認すべき箇所だけを書きます。
なお、この記事は法律の専門的な助言を目的としたものではありません。金額の大きい契約や、判断に迷う条項については、必ず専門家に相談してください。
結論:もめるのは「金額」ではなく「範囲」
先に結論を書きます。契約でもめる原因の大半は金額ではありません。どこまでやるかの認識がずれていることです。
作る側は実装までのつもりで、頼む側は公開作業やその後の修正まで含んでいると思っている。この一点だけで、実際にかかる時間が倍近く変わります。
だから契約書を読むときは、金額の欄より先に業務の範囲が書かれた条項を見てください。金額が妥当かどうかは、範囲が決まって初めて判断できます。
最低限、確認したい7項目
1. 業務の範囲
いちばん重要な項目です。次の5つが読み取れるか確認してください。
- どこまで作るか(ページ数・機能の範囲)
- 素材は誰が用意するか(原稿・画像の支給有無)
- 公開作業を含むか(サーバー側の作業まで入るか)
- 公開後の対応期間はいつまでか
- 誰とやり取りするか(窓口が一本化されているか)
「Webサイト制作一式」とだけ書かれている契約書は珍しくありません。この書き方だと、あとから何を言われても断る根拠がなくなります。
2. 修正回数
回数の上限と、超えた場合にどうなるかの両方が要ります。上限だけ書いて超過時の扱いがないと、実質は無制限と変わりません。
「デザイン修正2回まで、以降は1回あたり◯円」という形が分かりやすいです。回数を厳しくする必要はなく、線がどこにあるかが明記されていればいいと考えています。
3. 検収の条件
いつ「完成」とみなすかを決める条項です。ここが曖昧だと、いつまでも支払いが確定しません。
「納品後◯営業日以内に連絡がなければ検収完了とする」という一文があると、作業が終わったのに放置されるという状況を避けられます。
4. 支払いの時期と方法
締め日と支払日、そして振込手数料の負担を確認してください。月末締めの翌々月払いだと、着手から入金まで3か月以上空くことがあります。
期間が長い場合、生活のほうが先に厳しくなります。着手金を設定できないか相談する価値があります。
5. 著作権の扱い
制作物の権利をいつ移すかという条項です。実務では「支払い完了時に移転する」としておくのが自然です。
納品時点で移転する形だと、支払いが滞ったときに手元に何も残りません。
6. 実績として公開してよいか
見落とされやすい項目です。ポートフォリオに載せられるかどうかは、次の案件の取りやすさに直結します。
公開不可の契約自体は珍しくありませんが、その場合は「担当範囲だけ文章で書く」など、代わりの見せ方を先に確認しておいてください。
7. 中途解約の扱い
途中で案件が止まったとき、そこまでの作業分がどうなるかという条項です。
先方都合で止まったのに1円も出ない、という契約もあり得ます。「実施済みの業務に応じて精算する」という記載があるか確認してください。
契約書がないまま始まりそうなとき
正式な契約書でなくてもいい
小規模な案件では、契約書を交わさないことも実際にあります。ですが、何も残さないのは避けてください。
正式な書面でなくても構いません。メールで次の内容を送って、返信をもらうだけで十分な記録になります。
- 作業の範囲(上の7項目のうち1と2)
- 金額
- 納期
- 支払いの時期
「認識を合わせておきたいので、以下でお間違いないかご確認ください」という書き方なら、角も立ちません。
言い出しにくいと感じるとき
私も、早めに言えばよかったと思う場面が何度もありました。ためらっている間に作業が進むと、あとから言い出しにくくなります。
範囲を確認してくる人は、警戒されるどころか入ってから揉めないと判断されて印象が良くなります。これは面談でも同じでした。
実務でよく起きる3つのずれ
1. 「ちょっとだけ」の追加が積み上がる
1回あたりは数分で終わる依頼でも、回数が増えれば時間になります。しかも小さい依頼ほど記録に残りません。
対処は難しくありません。範囲外の依頼が来たら、その場で断る必要はなく、「範囲外なので、別途お見積もりします」と返すだけで十分です。無償で受けるか断るかの二択にしないでください。
2. 窓口が増える
途中から別の担当者が意見を出し始めると、指示が食い違います。誰の指示を優先するかを最初に決めておくと、この問題はほぼ防げます。
3. 素材が届かないまま納期だけ来る
原稿や画像の支給が遅れても、納期はそのままというケースです。「素材支給の遅延分だけ納期を後ろにずらす」という一文があると助かります。
金額を決める前に、時給で見る
契約の良し悪しは時給に出る
契約内容が甘いと、必ず時給が下がります。範囲が曖昧なぶんの作業が、すべて自分の時間から出ていくからです。
私はフリーランスとして活動を始めた当初、自力の営業しか知りませんでした。ようやく取れたのが月10万円の案件でしたが、月140時間かかっていたので、時給に直すと714円です。アルバイトのほうが高い水準でした。
いま振り返ると、金額が低かったこと以上に範囲を決めずに受けていたことが効いていたと思います。
計算に入れるもの
時給を出すときは、実装以外も全部入れてください。
- 打ち合わせ
- 見積もりや提案書の作成
- 修正のやり取り
- 公開後の不具合対応
- 請求書の発行
安い案件ほど、実装以外の時間が長くなる傾向があります。ここを外すと判断を誤ります。具体的な計算方法は見積もりの出し方にまとめました。
契約形態によって、見るべき場所が変わる
請負と準委任で、責任の重さが違う
業務委託契約は、大きく2つに分かれます。実務での違いは「完成させる義務があるかどうか」です。
| 請負型 | 準委任型 | |
|---|---|---|
| 報酬の対象 | 完成した成果物 | 従事した時間・業務 |
| 完成の義務 | あり | なし |
| よくある形 | サイト制作一式 | 常駐・月額での参画 |
| 重点的に見る箇所 | 検収条件・修正回数 | 稼働時間の上下限・精算 |
制作案件を1本ずつ受けるなら請負型、企業に入って月額で働くなら準委任型になることが多い、という理解で実務上は足ります。
月額の案件では「精算幅」を見る
常駐や月額での参画では、稼働時間の上下限と、その範囲を外れたときの精算が金額に直結します。
たとえば「140〜180時間」と決まっている場合、下回れば控除、上回れば追加という形になります。ここを見ずに月額だけで判断すると、実際の手取りが想定とずれます。
週の稼働日数を落とす働き方を考えている方は、週3案件で働くという選択もあわせてご覧ください。
実際に条件を落としてしまう3つのパターン
1. 断ると次が来ないと思っている
いちばん多い理由がこれです。ですがこれは交渉が下手なのではなく、構造の問題です。
- 取引先が1社しかない
- 断ると収入がゼロになる
- だから提示された条件を受ける
- 受けるので、次も同じ条件で来る
この輪の中にいるかぎり、契約書の読み方を覚えても使えません。断れる状態を作ると、条件は自然に通るようになります。順番が逆なのです。
2. 相場を知らない
提示された金額が高いか安いか、比較対象がないと判断できません。私が714円に気づけなかった原因もこれでした。
相場は、調べるより案件を紹介する側に聞いたほうが速いというのが実感です。面談では経歴を見たうえで、具体的な金額を教えてもらえます。
3. 全部を自分で抱えている
営業も契約も請求も一人でやっていると、契約書を読み込む時間そのものが取れません。時間がないから確認できず、確認できないから条件が悪くなるという流れです。
ここは仕組みで解決できる部分です。次の項目で書きます。
契約の手間を減らすもう1つの方法
エージェント経由なら、契約は代行してもらえる
ここまで直接取引を前提に書いてきましたが、契約まわりを自分で処理しない方法もあります。フリーランスエージェント経由の案件です。
契約書の作成、条件のすり合わせ、支払いサイトの管理、そして条件が合わないときの調整。これらを担当者が代わりにやってくれます。
私は7社に登録しましたが、門前払いはゼロで、技術テストもありませんでした。聞かれたのは経歴・得意分野・週何日働けるかの3点だけです。提示されたのはどこも月50万円台でした。
どちらが得かは、時給で比べる
エージェント経由は手数料が引かれるぶん、額面では直接取引より低く見えます。ですが営業・契約・請求・トラブル対応にかかる時間が丸ごと不要になります。
この時間を含めて時給で比べると、順位が入れ替わることは珍しくありません。両方の違いはエージェントと直接取引の違いに整理しています。
Midworksは正社員並みの保障を用意している会社で、登録も相談も無料です。9社の比較はフリーランスコーダーにおすすめのエージェントにまとめました。
署名する前のチェックリスト
- 業務の範囲が具体的に書かれているか
- 修正回数と、超過時の扱いがあるか
- 検収の条件が決まっているか
- 支払日と、着手から入金までの期間を確認したか
- 著作権の移転が支払い完了時になっているか
- 実績として公開できるか
- 中途解約時の精算が書かれているか
- 素材支給が遅れた場合の納期の扱いがあるか
- 窓口が一本化されているか
- 時給に直して、受ける水準に達しているか
10項目ありますが、迷ったときに効くのは1と10だけです。範囲が明確で、時給が水準に達していれば、細かい条項で大きく損をすることはあまりありません。
よくある質問
Q. 契約書のひな形はどこで手に入りますか
公的機関が公開している書式が参考になります。ただしひな形をそのまま使うより、上の7項目が自分の案件に合っているかを見るほうが重要です。
Q. 印紙は必要ですか
契約の種類と金額によって扱いが変わります。判断は税務署か税理士に確認してください。この記事では踏み込みません。
Q. 先方の契約書に修正を求めてもいいですか
問題ありません。質問する形にすると通りやすくなります。「この条項は◯◯という理解で合っていますか」と聞けば、認識合わせとして自然に話が進みます。
Q. 未経験でも契約書を交わせますか
経験は関係ありません。むしろ実績が少ないときほど、範囲を決めておいたほうが安全です。実績の作り方は実績なしで案件を取る方法に書きました。
Q. 秘密保持契約(NDA)だけ先に求められました
制作案件では普通にあります。NDAを結んだ時点では、まだ仕事を受けたことにはなりません。内容を見るための入口なので、そこで身構える必要はありません。
ただし、そのあと提示された条件が合わなければ断って構いません。NDAを結んだから受けなければならない、ということはありません。
Q. 契約書の内容を相談できる相手がいません
直接取引だと、確かに一人で判断することになります。私も独立した当初は同じ状況でした。
この点は、エージェント経由だと担当者が間に入ります。条件が合わないときの調整も代わりにやってくれるので、判断材料を持てないうちは使う価値があります。
Q. 支払いが遅れたらどうすればいいですか
まず契約書の支払い条項を確認し、記録が残る形で連絡してください。この対応を自分でやりたくない場合、エージェント経由のほうが向いています。
Q. 契約書を読む時間がありません
全部を精読する必要はありません。範囲・修正回数・支払日・解約の4か所だけを先に見てください。この4つで大半のリスクは把握できます。
まとめ
- もめる原因は金額ではなく範囲
- 確認するのは7項目、迷ったら範囲と時給の2つ
- 契約書がなくてもメールで認識を残す
- 範囲外の依頼は断るのではなく別途見積もりと返す
- 契約の手間を外したいならエージェント経由という選択肢がある
私が時給714円で働いていた時期に足りなかったのは、技術ではなく範囲を決めるという習慣でした。ここは今日からでも変えられます。
単価そのものを上げる方法はコーダーの単価の上げ方、月額の水準はコーダーの単価相場にまとめています。

